製造業の現場で欠かせない存在となっている「産業用ロボット」。自動車産業をはじめ、多くの製造分野で活躍し、生産性向上や品質安定化に貢献しています。
本記事では、産業用ロボットの定義から具体的な種類、導入メリットまで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
産業用ロボットとは、工場などの製造現場で使用される自動化された機械システムのことを指し、日本産業規格(JIS)によって厳密に定義されています。JISでは「自動制御され、再プログラム可能で、多目的なマニピュレータであり、3軸以上でプログラム可能で、1か所に固定して又は移動機能をもって、産業自動化の用途に用いられるロボット」 と定義されています。
この定義をかみ砕いて説明すると、以下の条件を満たすものが産業用ロボットに該当すると言えます。
●マニピュレータ(=アーム)があること
●3軸(=関節)以上あること
●1箇所に固定されているか、運動機能があること
●使用する用途が産業の自動化のためであること
●再プログラムが可能で自動制御されていること
一方、産業用ロボットの他に「サービスロボット」という種類のロボットも存在します。サービスロボットは基本的に「上記の条件に該当しない、産業用ロボット以外のロボット」と考えることができます。
例えば、家庭用のお掃除ロボットや介護ロボットなどが、代表的なサービスロボットとして挙げられます。
業用ロボットは、主に以下の4種類に分類されます。
垂直多関節ロボットは、人間の腕に似た構造を持ち、複雑な動きが可能な産業用ロボットです。一般的に6軸の可動性を持ちますが、4軸から7軸まで様々なタイプがあります。
溶接や塗装など様々な用途に使用され、産業用ロボットの中で最も一般的なタイプだと言えます。
高い汎用性を持ち、物流拠点や部品加工工場などの様々な現場で活用されています。腕を折り曲げられるため狭い場所でも効果的に使用できますが、軸数が多いため制御が複雑になる面もあります。
スカラロボットは、水平方向の2つの回転軸と、垂直方向の1つの直線軸を持つロボットです。多くの場合、手首に水平の回転軸を加えた4軸構成が一般的です。
SCARA(Selective Compliance Assembly Robot Arm)という名称がその特性を表しており、水平方向への柔軟性と垂直方向への剛性を兼ね備え、主に組立作業に適しています。
垂直多関節ロボットほど複雑な動作はできませんが、部品の押し込みなど、真上からの作業に優れています。
パラレルリンクロボットは、複数のアーム(通常は3対または4対)で1つの作業部を支える構造のロボットです。軽量なアームでありながら高い剛性を確保でき、非常に高速な動作が可能です。
主に、ベルトコンベア上での製品のピッキングや高速搬送に使用されます。先端には吸着ユニットなどが取り付けられ、流れてくる製品を素早く処理できます。
直交ロボットは、直角に組み合わせた直線軸で構成されるロボットです。1軸から6軸まで、用途に応じて軸数を増やすことができます。構造がシンプルで安価なため、複雑な動作は難しいものの、様々な用途に適用できます。
直動案内機器とボールねじなどを組み合わせて構築され、精密な位置決めが必要な作業に適しています。
これら4種類の他にも、近年では「協働ロボット」と呼ばれる新しいタイプの産業用ロボットも登場しています。協働ロボットは人間との接触を想定した安全機能を持ち、安全柵なしで人間と同じ空間で作業できるのが特徴です。
サービスロボットが人間の行う作業や動作を「支援」するのに対し、上記の4つの分類からも分かる通り、産業用ロボットは工場などで人の作業を「代替」することを主な目的としています。
産業用ロボットの導入は、製造業を中心に多くの利点をもたらします。生産性の向上、品質の安定化、労働環境の改善など、様々な面で企業の競争力を高める効果があります。ここからは、具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。
24時間365日稼働可能なロボットは、人手不足を解消し、生産性を大幅に向上させる可能性があります。
自動車産業での溶接工程や電子部品製造での微細な組立作業など、繰り返し精度が求められる作業において、ロボットは人間よりも高速かつ正確に作業を行うことができます。
また、休憩や交代なしで連続稼働できるため、特に夜間や休日の生産性向上に大きく貢献します。これにより、製造ラインの稼働率が上がり、生産量の増加や納期の短縮につながることが期待できます。
プログラム通りに正確に作業を行うロボットは、人間のような疲労やミスがなく、安定した品質を維持できます。
例えば、自動車の塗装工程や食品の包装工程など、均一性や精密さが求められる作業において、ロボットの導入は製品品質の向上と安定化に大きく寄与します。人間の作業では避けられない個人差や疲労による品質のばらつきを最小限に抑え、一定の高品質を保つことができます。これにより、不良品率の低下や顧客満足度の向上につながる可能性があります。
(引用:Unsplash)
危険な作業や過酷な環境下での作業をロボットが担当することで、労働者の安全を確保できます。
高温環境下での金属加工や、有害物質を扱う化学工場での作業など、人間にとって危険または健康被害のリスクが高い作業をロボットに任せることで、労働災害のリスクを大幅に低減できる可能性があります。
また、放射線管理区域内の点検作業や、深海での資源探査など、人間が直接作業することが困難な環境でもロボットの活用が期待されています。
これにより、作業員の安全が確保されるだけでなく、これまで人間が立ち入れなかった領域での作業が可能になり、新たな産業の発展にもつながる可能性があります。
産業用ロボットの導入には多くのメリットがありますが、同時にいくつかの課題や注意点も存在します。
まず、産業用ロボットの導入には高額な初期投資が必要となります。ロボット本体だけでなく、周辺機器や安全対策設備、さらには技術者の育成費用なども考慮する必要があります。
また、ロボットの操作やメンテナンスができる専門技術者の確保のために、社内での人材育成や外部専門家の活用も検討しなければなりません。
運用面では、チョコ停(チョコっと停止:製造業における短時間の生産停止)への対応が課題となります。生産性を維持するためには、システムの安定性向上や迅速な復旧手順の確立が求められます。
さらに、安全対策の徹底も不可欠です。適切な安全柵の設置や、センサーによる人の接近検知など、労働安全衛生法等に基づいた措置が必要となります。
これらの課題を事前に検討して適切な対策を講じることが、産業用ロボットの成功的な導入と運用につながります。
AI技術の発展やIoTの普及により、産業用ロボットの能力は日々進化しています。今後は機械学習を活用した自己学習型ロボットや、人間との協働作業をより円滑に行えるロボットの開発が進むでしょう。また、5G通信の普及により、遠隔操作や複数のロボットの連携もより高度化すると予想されます。
これらの技術革新により、産業用ロボットはより柔軟で高度な作業が可能になり、中小企業への普及も進むと考えられます。さらに、製造業以外にも医療・介護分野や物流業など、これまで人の手に頼ることが多かった分野でのロボット活用事例も増えるでしょう。
このように産業用ロボットの進化と適用範囲の拡大は、生産性の向上だけでなく、新たな産業創出や労働環境の改善などを通じて、私たちの社会に幅広い影響を与えていくことが予想されます。