ロボット業界におけるブロックチェーンの応用可能性や最新の事例を紹介する本連載。
第1回ではブロックチェーンとロボットの関係性、第2回ではドローン業界における活用事例。そして今回は、ロボット業界でブロックチェーンがどのように活用されているのか解説します。今後のロボット、ブロックチェーン市場の動向についても併せて学びましょう!
1つ目の活用事例として紹介するのは、株式会社ZMP(東京都文京区)が開発した宅配ロボット「CarriRo Deli」です。無人配送サービスにおいて、ブロックチェーン技術を活用したシステムを開発しました。
このシステムでは、自律走行する宅配ロボットの配達状況を、注文完了から受取完了までのステップごとにブロックチェーンに記録し、ダッシュボードで可視化します。
ブロックチェーンに記録された情報は強力な暗号化により改ざんが不可能となるため、配達サービスの信頼性と透明性の向上につながるのです。
2021年には日本初となる公道での実証実験に参画。2023年4月には改正道路交通法が施行され、自動配送ロボットの公道走行が可能になったことで、今後の需要の高まりが期待できます。
2つ目に紹介するのは、ロボットとNFT(非代替性トークン)アートを融合した作品「Kazokutchi」です。
Kazokutchiは、物理的な箱庭に設置された「家」と呼ばれるロボットと、その家に住むデジタル人工生命体「Kazokutchi」によって構成されています。
各「Kazokutchi」の情報はNFTとして登録され、名前や生年月日、家系などのデータを持っています。「Kazokutchi」は繁殖が可能であり、産まれた卵にも自動的にNFTが発行される仕組みです。
生成された卵はNFTマーケットプレイス「OpenSea」において確認可能で、卵を孵化させ名前を付けることも、売却することも可能になるとのこと。
この作品は、ロボットの挙動がブロックチェーン上のアクションに反映されるユニークな特徴を持ち、NFTやブロックチェーンが社会にどのような意味を持ち得るのか、新しい社会実装の形を考えるためのヒントを与えてくれます。
最後に、スマートファクトリーにおけるブロックチェーン活用事例を紹介します。
スマートファクトリーとは、2011年にドイツ政府が提唱したインダストリー4.0(第4次産業革命)を主要なコンセプトとし、IoTやAI、ロボットなどの先進技術を活用して製造工程における自動化・最適化の実現を目的としています。
従来の工場と比べ、生産性や品質、柔軟性などが大幅に向上するだけでなく、リアルタイムでのデータ収集・分析により、製造プロセスの可視化や予知保全が可能になります。
株式会社Datachainは、大手グローバルメーカーと共同で、スマートファクトリーにおけるロボットデータ共有プラットフォームの実証実験を行いました。この実験では、ロボットのメンテナンスやトラブル発生時に、製造事業者の本社・工場、ロボットメーカー、システムメーカーなどの複数の関係者間でデータを安全に共有するためのプラットフォームを構築しました。
(引用:PR TIMES)
システム基盤には、ブロックチェーンの一種である「Hyperledger Fabric」を採用しています。Hyperledger Fabricには、「Private Data Collection」と呼ばれる機能があり、特定のデータを特定の参加者だけに公開することができます。これにより、各関係者に応じた適切なアクセスコントロールを実現できる仕組みです。
また、「key-level endorsement policies」という機能を使うことで、データへのアクセス権限を柔軟に設定・管理することも可能です。
この実証実験により、設備状態の把握によるコスト削減や、トラブル発生時の迅速な対応などの有効性が確認されました。
ブロックチェーン技術を活用することで、複数の関係者間で安全にデータを共有し、スマートファクトリーの運用を最適化できる可能性が示されたと言えるでしょう。
参照:Datachain、大手グローバルメーカーと、ブロックチェーンを活用しスマート工場の実現を目指す、ロボットデータ共有PFの実証実験を実施
ロボットとブロックチェーン市場は今後も成長すると予想されており、両者の融合が新たなイノベーションを生み出すことが期待されています。
総務省が発表した「令和6年版 情報通信白書の概要」によると、世界のロボット市場は大幅な収益増が見込まれており、2024年には約428億ドル(約6兆3,600億円)に達すると予測されています。
特にサービス・ロボティクス分野は、2024年の市場規模が約335億ドル(約4兆9,800億円)と優位を占めると予想され、2028年までに全体で約656億ドル(約9兆7,500億円)に達すると推定されています。
(出典:令和6年版 情報通信白書の概要)
一方、ブロックチェーン市場も大きな成長が見込まれています。Fortune Business Insightsの調査によると、2023年の世界のブロックチェーン市場規模は約175億ドル(約2兆6,006億円)ですが、2032年までに約8,259億ドル(約122兆7,000億円)に達すると予測されており、今後9年間で47倍もの成長が期待されています。
両分野の市場規模の成長に伴い、ロボットの自律的な取引や契約の実現、ロボットが生成するデータの信頼性向上、新たなサービスの創出など、ブロックチェーン技術がロボット業界に大きな変革をもたらす可能性があるでしょう。
また、近年注目されているAI技術によって、ロボットの知能はさらに人間に近づいていくことが予想されます。高度な判断力を備えたロボットたちが、ブロックチェーン上で自らの意思決定に基づいて取引する。そのような未来がもう目の前まで来ているのかもしれません。
ロボット業界におけるブロックチェーン技術の活用は、宅配ロボットの配送管理や、ロボットとNFTアートの融合、スマート工場でのデータ共有など、様々な分野で具体的な事例が登場しています。
ブロックチェーンの特性を活かすことで、ロボットの運用の信頼性や透明性の向上、新しい価値の創出、業界を超えたデータ共有などが可能になるでしょう。
AI技術の進歩も相まって、ロボットの自律的な取引や契約の実現、ロボットが生成するデータの信頼性向上、新たなサービスの創出など、ブロックチェーン技術がロボット業界に大きな変革をもたらす可能性に期待が高まっています。