「日系製造業企業は売れる特許やブランドがあれば、今のうちに中国企業へ売った方がいい。今ならまだ高値で買ってくれる」。2010年代の前半から中盤にかけて、筆者は周囲に対し上記のような内容を繰り返し主張していました。しかし当時の反応はというとあまり芳しくなく、むしろ何を考えているのだと怪訝な顔をされるばかりか、売上はともかく技術で中国が日本を追い抜くことはないなどとよく否定されていました。
ただあれから約10年が経った現在、自分の見立てはそこまで大きく間違ってはいなかったと確信しています。現在、日本の製造業で中国に勝る競争力を持つ分野はほとんどなく、携帯電話やテレビなど、もはや日本国内でほとんど作られなくなり産業そのものが消滅しかけている製品も少なくありません。こうした状況もあってか、大体時期にして2018年くらいから日中製造業の優劣について素直に中国に負けたと認める人も増えていき、今では特定産業を除くと「日本はまだ勝っている」という主張に対してすぐさま逆批判がなされることすら見るようになりました。
ではなぜかつて圧倒的優位を誇った日本を追い抜き、中国の製造業は国際的に競争力を持つようになったのか。私に限らずさまざまな媒体がこの問いに対する見解を出していますが、愚昧ながら本稿では私の見解もご紹介しようかと思います。
担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)
中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。
今回記事を書くにあたって他媒体の分析を眺めてみたところ、どの媒体も触れていたのが中国政府の産業支援政策と、膨大な人口に裏打ちされた国内市場の規模です。
このうち後者に関して、近年は人口数でインドに抜かれたもののそれ以前は世界最大の人口を抱えていた中国は、国内市場規模が他国に比べ圧倒的に大きいという特徴があります。こうした特徴から大規模投資を行っても過剰投資にならずに済みやすいこともあり、思い切った投資がしやすい環境にあります。投資規模が大きければ稼働時の製品原価も抑えやすくなり、国内のみならず他国にも安価での製品輸出を実現することができ、これが「世界の工場」への原動力となりました。
最も太陽電池や鉄鋼をはじめ、国内市場はおろか世界市場まで飽和させ、自滅に至るほどの過剰投資が中国ではよく見られます。中国政府もある程度は抑えて管理しようとしていますが、こうした市場の暴走が今のデフレを生んでいる側面もあるでしょう。
とはいえ、膨大な国内市場規模を背景とした果断な大規模投資は、間違いなく中国を製造強国とした要因の一つとみて間違いないでしょう。
以上のような市場マクロ要因もさることながら、単純に理系人材が多くて質が高いということが、中国製造業の最大の強みだとかねてから睨んでいます。
現在日本では理系離れが進み、一部大学で女子枠なども設けられているとも聞きますが、中国の大学ではかねてから理系が主流です。かつてと比べると文系人気も高まってきてはいるものの、直近データでみても大体6:4くらいの割合で理系が依然多数派を占めています。
実際中国で働いていても、経理や法務、果てには通訳を現在仕事にしながらも出身学部は理系だという人によく会います。一般に文系職種と思われるような上記職種でも理系出身者が見られるほど、中国は理系人材を毎年数多く社会に輩出しており、これが製造業を力強く下支えしているように見えます。
最も中国の理系学部はやや機械工学系に偏っていて理学系が少なく、これが影響してか素材産業は他の製造分野ほど中国では成長せずやや後れを取っており、日本もこの分野ではリードを保っています。
中国は市場が本格的に自由化されたのが比較的遅かったことから、現在の中国の各産業おける主要企業の多くは90年代から00年代の創業で、中には設立10年未満という企業もあるなど、比較的若い企業ばかりです。そのためこれらの企業では必然的に現在の社長(総経理)が創業者であることが多いのですが、その創業者自身が技術者出身で、専門技術分野に対し一定の知見を持っていることも多く、これも中国製造業の強みとして数えるべきでしょう。
まず創業者自身が現社長であるため、自社の成長拡大に対し非常に熱心です。自分が設立した会社なだけに思い入れも深く、企業年齢が長い日系企業と比べると投資拡大に対する意欲が明らかに高いです。
さらにその投資意思決定に関しても、自らが一定の技術的知見を持っていることから投資先の見極めが鋭い上に、果断に行われる傾向がみられます。決して財務や管理畑の経営者を悪く言うつもりはないのですが、創業間もない成長期にある企業においてはこうした技術者系経営者であれば、投資意思決定の的確さと速さにおいては一日の長があるように思えます。