抹茶や玉露といった日本が世界に誇る高級茶。その芳醇な香りと旨みを生み出す裏側には、茶園全体を黒い資材で覆う「被覆(ひふく)作業」という、過酷な重労働が存在する。足場の悪い急傾斜地で行われるこの作業は、高齢化が進む茶農家にとって最大の負担であり、事故のリスクとも隣り合わせだった。
この危険な作業を、ドローンとデジタル技術の力で自動化し労働時間を劇的に削減する革新的な技術が、農林水産省の「スマート農業技術活用促進法」に基づく認定を取得した。手掛けるのは、自動車製造の現場で培ったノウハウを農業に応用するスタートアップ、AutoCover株式会社だ。伝統ある茶業を次世代へ繋ぐ空からの挑戦を追う。(文=RoboStep編集部)
2025年12月9日、AutoCover株式会社は、同社が開発した茶園の「被覆作業」を自動化する技術が国の開発供給実施計画に認定されたと発表した。この技術が解決しようとしているのは、茶業界が長年抱えてきた深刻な構造的課題だ。高級茶の栽培に欠かせない遮光資材は雨を含めば相当な重量になる。それを担いで滑りやすい急斜面を登り降りし手作業で広げたり畳んだりする作業は、まさに命がけと言っても過言ではない。
(引用元:PR TIMES)
AutoCoverはこの課題に対し、産業用ドローンと高度な「デジタルツイン技術」を融合させることで解決を図った。デジタルツインとは、現実世界の環境をそのまま仮想空間上に再現する技術のことだ。まず、LiDAR(ライダー)と呼ばれる高性能センサーを搭載したドローンで茶園を計測し、デジタル空間上に地形や畝の形状を精密に再現する。そして、そのデータをもとに傾斜地でも衝突しない「安全かつ最適な空のルート」を自動生成するのだ。この高度な技術のルーツは、AutoCoverが拠点を置く愛知県の「自動車製造」にある。工場の生産ラインを仮想空間で検証するノウハウを、不規則で変化の激しい農業の現場へと転用したのだ。
さらに、物流ドローンには独自開発のアタッチメントが搭載されており、空中から資材の展開・巻き取りを自動で行うことができる。これにより、従来は数日がかりで行っていた作業がわずか数時間に短縮され、約80%もの労働時間削減が可能になるという。「人手不足だからロボットを使う」というだけでなく、過酷な環境から人間を解放し農家の安全を守るという意味でも、この技術の意義は極めて大きい。

(引用元:AutoCover株式会社公式サイト)
今回の認定は、国がこの技術を「日本の農業にとって特に必要不可欠なもの」であると公式に認めたことを意味する。これは一企業の技術開発にとどまらず、日本の「茶文化」と「中山間地の農業」を守るための重要な布石と言えるだろう。
平地での大規模農業とは異なり、中山間地での農業は機械化が難しく、担い手不足による耕作放棄地の増加が深刻化していた。しかし、地形の制約を受けにくいドローンという「空からのアプローチ」であれば、これまで維持が困難だった急斜面の農地も効率的に管理できる可能性が広がる。高級茶の生産拠点を守ることは、日本の食文化と輸出産業の競争力を維持することに直結する。
また、AutoCoverが愛知県のスタートアップである点も興味深い。世界をリードする自動車産業が集積する愛知のモノづくり技術が、伝統的な茶業の課題解決に活かされる。この「異業種技術の融合」こそが、日本のスマート農業を加速させる鍵となるはずだ。同社は2026年から主要茶産地での実証を開始し、将来的には他作物の資材被覆や収穫物の搬送などへも応用範囲を広げていくという。テクノロジーの力で重労働を過去のものにし、次世代が「挑戦したい」と思える魅力的で持続可能な農業へ。空飛ぶロボットが描く未来の農業風景に、大きな期待が寄せられる。