労働人口が2030年に670万人不足する試算がある中、アイリスオーヤマは2025年10月29日、法人向け清掃ロボットの新製品「JILBY(ジルビー)」を発表し、同時にNTT西日本との業務提携に関する基本合意覚書を締結した。
清掃ロボット「JILBY」はアイリスオーヤマ初の完全内製であり、本製品を皮切りに今後はロボットメーカーとしての自立を目指す。さらにNTT西日本が提供する「AI ロボティクスプラットフォーム」と「JILBY」を連携させ、運用データを活用した労働力不足解決へのアプローチを試みる。特筆すべきはAIプラットフォームを中心に据えた「最適化されたロボット」を実現する仕組みだ。
生活用品の企画・開発・製造・販売を手掛けるアイリスオーヤマと、情報通信インフラの技術やICTにおける知見を持つNTT西日本。従来普及が進まなかったロボット運用に対して、データ活用の切り口を持ち込む点が特徴だ。両社はどのようにして「ロボットが現場で使われ続ける仕組み」をつくろうとしているのか。(文=RoboStep編集部)
家電を始め生活用品の企画・製造・販売を手掛けるアイリスオーヤマ。社会課題を解決することが企業の成長につながるという独自の考えを推進し、多岐に渡る事業を展開している。同社は日本の労働力不足を解決する「ロボティクス」を次なる成長の柱と位置付け、2020年からロボット事業に参入を開始。業務用清掃ロボットの国内ベンダーシェアでは2年連続で1位を獲得(2023年~2024年)。今回の新型ロボット「JILBY」ではソフト・ハード共に同社初となる完全内製化を実現し、ユーザーの声を製品開発とアップデートへ即座に反映できる体制を確立した。

「JILBY」は、床面の集塵清掃を自動で行うDX清掃ロボット。これまで同社がサービスロボットを通じて得た知見を基に、業務用清掃ロボット使用時の課題を洗い出し、設計・開発を行った。例えば、清掃完了後に自動で充電ステーションに帰還する「自動充電機能」や、清掃中の稼働音を抑えた「静音モード」など、ユーザーの声を反映した機能を搭載しており、2026年半ばの発売を予定している。
ただ、「ロボット単体では『点』のサポートにしかならない」という考えから、導入施設や外部システムとの連携機能を備える事に。そこでNTT西日本グループが開発中の「AI ロボティクスプラットフォーム」(仮称、2025年12月開始予定)を連携させ、フィジカル AIを実現することとなった。

この「AIロボティクスプラットフォーム」は、ロボットの操作といったロボットプラットフォームの基本機能に加え、『フィジカルAI(現実世界の情報から適切な行動をとるAI)』の社会実装を見据えた中核基盤だ。NTTが開発した日本語特化型大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi」をはじめとする複数の生成AIを活用し、既存業務の改善・最適化を実現。ロボットから取得可能なデータを集約・解析することも可能で、各業種・業態でロボットを効果的に利用する体制を整えられる。

今回「JILBY」には、「AIロボティクスプラットフォーム」機能の1つである「AI エージェント」が実装された。AIエージェントは、タブレットやスマートフォンなどの端末を通じて、ユーザーとロボット間でテキストや音声による双方向のコミュニケーションを可能にする。単なる指示に留まらず、蓄積された清掃データなどを基にAIが自律的に学習し、最適な清掃ルート、頻度、時間帯などをAIエージェントが提案することで、清掃業務の効率化と最適化を実現する。
日本語に強いLLM「tsuzumi」と、会話の応答や推論に強いGPTなどのLLMを組み合わせることで、手軽にロボットに清掃の指示を出したり、逆にロボットから提案を受けることも。写真は、タブレット等の端末からJILBYと会話し清掃を実行し、汚れの度合を見て再清掃を提案されている様子だ
将来的には、エレベーターやフラッパーゲート、空調、照明といったビルマネジメントシステムとの連携も進み、施設全体とロボットが連動することで生産性のさらなる向上を目指す。特筆すべきは「JILBY」だけでなくあらゆるロボットやデバイス等と、AIプラットフォームを連携させていく点だ。100台、200台、1000台といった多数のロボットやウェアラブルデバイス等を地域や場所を超えて一元管理できるようになり、運用、労働、経営の生産性すべてを改善できると見込んでいる。
AIロボティクスプラットフォームを中心に、複数の場所で得たデータを別のハードウェアにも還元される。これが繰り返されることで、AIを備えたデバイスが各現場に最適な働きをするといえる
アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役社長 大山 晃弘氏は「ロボットだけでなくビルマネジメントシステム、各種センサー、ウェアラブル端末と組み合わせることで、保守メンテナンスサービスのさらなる効率化・合理化を図りたい」と語る。
アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役社長 大山晃弘氏
アイリスオーヤマは今後清掃ロボットに限定せず、多様な業界の労働力不足を解消するロボットを開発していく。NTT西日本と協力してプラットフォームの精度を高め、ロボットとAI、ロボットプラットフォームで繋がる社会を進化させていく。
NTT西日本の北村亮太社長は「労働力不足が加速する一方で、ロボットの活用市場は2030年までに5倍に拡大し、次世代の社会インフラとなる見込みです。長年日本の通信を担ってきたNTTだからこそ、人、AI、ロボットが協働する新しい社会基盤を創出していくことが使命だと考えています」と語る。

ロボットの社会実装における課題は多い。その1つが「導入施設がロボットフレンドリーな環境にない」こと。ビルのエントランスゲートや、エレベーター連携の遅れ、高コストがそれにあたる。さらに、清掃スタッフによる手動操作への依存や清掃エリアが限定的であるといった「コストとパフォーマンスの両立」が困難であることだ。
今回の協業は、上記の課題を「AI、ロボット、ロボットプラットフォームの三つを融合」することで解決する狙いだ。現場に適したロボットを選び、AIで動きを最適化。遠隔操作や直感的な操作指示で、誰もが使いやすいフィジカルAIの世界を実現し、生産性を飛躍的に向上させる。
将来的には、身近なロボットが最適な動きを実現し、人と協働する未来が想像できる。それがビル全体、地域全体、ひいては日本全国の各施設、地域のデータが集約される。最適化されたデータが全国に再共有されるサイクルが生まれ、最適化された社会を作っていくかもしれない。両社は、壮大なDXの未来図を描き始めているといえるだろう。