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2025.10.15

未来をつなぐ、スプリングコネクタ (ロボット編)“強さと柔軟性”で産業を発展させる

電力や信号を伝達するため、あらゆる電子機器に使われる「コネクタ」。身近な存在でありながら、その技術について知る場面は少ない。当連載では、コネクタの中でもバネ(コイルスプリング)を内蔵する「スプリングコネクタ」の技術にフォーカスを当て、XRやロボット、AI、そして宇宙分野といった各分野での活用法を学ぶ。寄稿いただくのはスプリングコネクタ大手の株式会社ヨコオ。今回紹介するのはロボット分野。ミクロな技術を知ることで、身近にある機器について理解を深めてほしい。

株式会社ヨコオ

1922年創業・1951年設立の電子部品メーカー。主に車載用アンテナや半導体回路検査用コネクタ、医療用微細精密部品などを開発・製造し、業界をリードする技術力とグローバル生産体制を持つ。

ロボット全般におけるスプリングコネクタの役割

ロボット技術は、産業、医療、家庭、教育など多様な分野で急速に進化しています。自動化やAIとの連携が進む中で、ロボット内部の構造や部品には、より高い信頼性、柔軟性、そしてメンテナンス性が求められるようになりました。特に、電気的な接続を担う「スプリングコネクタ(SPRING CONNECTOR™)」は、ロボットの性能と使いやすさを支える重要な役割を任っています。

スプリングコネクタは、接点圧によって安定した電気接続を維持しながら、繰り返しの着脱に強い側面を持ちます。

表面実装やスルーホール実装、はんだ不要のフローティング構造※での取り付けが可能な部品です。サイズは直径1〜3mm程度と非常に小型で、ロボットの種類に応じてカスタマイズが可能です。

※フローティング構造:部品同士の接合部に「遊び」や「可動性」を持たせることで、接続時や使用時の位置ズレ、振動、衝撃などを吸収する構造

スプリングコネクタの図。(この図は、基板表面にはんだ付けが必要な表面実装タイプです)

高耐久性と省スペース性を兼ね備えており、ロボットの設計自由度を高め、現場での運用効率を大きく向上させています。

主な使用箇所

・基板間接続(Board to Board):制御基板やセンサーモジュール間の信号・電力伝達に使用され、振動や衝撃が加わる環境でも安定した接続を維持します。

・バッテリー接続部:バッテリーと本体端子面との接続に使用され、工具不要で着脱可能な構造がメンテナンス性を高めます。

・モジュールのドッキング部:交換可能なセンサーやアクチュエータの接続部に使用され、ワンタッチで接続可能な設計が特徴です。

・テスト、診断用接続:製造ラインでの動作確認や、保守・修理時の故障診断、開発中の試作品のデバッグなどに活用されます。

ロボット別 スプリングコネクタ活用法

繰り返しの動作やモジュールの着脱など、耐振動性・耐衝撃性・高信頼性が求められるロボット。ここにはスプリングコネクタの特性が最大限に活かされています。ロボットの種類別にスプリングコネクタの活用法を見ていきましょう。

産業用ロボット

センサーやバッテリーモジュールの交換時にも工具不要で着脱できるため、現場での作業効率を向上。また、基板間接続では、フローティング構造によりズレや振動を吸収し、安定した動作を支える設計となっています。

活用例

・ロボットアームの関節部や制御ユニット間の接続:繰り返しの動作に耐える高耐久性が求められます。

・AGVのバッテリー交換部やセンサー接続部:頻繁な着脱が必要な場面で、工具不要の構造が活躍します。

・検査装置やテスト治具での繰り返し接続・切断:製造ラインでの品質管理において、信頼性の高い接続が不可欠です。

医療用ロボット

医療分野では、繰り返しの滅菌処理に耐える素材と構造が必要であり、スプリングコネクタの設計にも精密性、衛生性、そして高度な耐久性が求められます。手術支援ロボットでは、ツール接続部にスプリングコネクタを使用することで、微細な電気信号を安定して伝達。フローティング構造により、位置ズレを吸収しながらも確実な接続を維持します。

腕など身体に装着するウェアラブル医療機器との接続では、充電・データ転送部にスプリングコネクタが活用されています。無はんだ接続することにより衛生的で、メンテナンス性にも優れています。また、患者に直接触れ、身体機能や生体組織の弾性などを計測診断する「診断ロボット」では、高頻度な交換にも耐える構造が求められ、最大で10万回以上の嵌合に対応する高耐久性を持っています。今後、遠隔医療や自動化支援が進む中で、安定した通信と電力供給を担うスプリングコネクタの役割はさらに拡大していきます。

活用例

・手術支援ロボット:交換可能な器具やセンサーとの接続により、精密な操作を支援。

・リハビリ支援ロボット:センサー部の着脱が容易で、患者ごとのカスタマイズが可能。

・検査・診断ロボット:プローブやカートリッジの接続部に使用され、診断精度の安定化に貢献。

コミュニケーションロボット

人と触れ合い、家庭、教育、介護などの分野で活躍するコミュニケーションロボットでは、柔軟性と高い信頼性が求められます。スプリングコネクタは、音声・カメラ・センサーモジュール間の接続に使用され、ユーザー自身による簡単な交換性が求められます。

自動充電ドックとの接続では、位置ズレに強い構造により確実な電気接続が可能です。顔認識や音声ユニットとの接続では、高速な信号伝送にも対応し、ノイズ耐性と信号整合性を確保します。さらに、小型ロボットに最適な省スペース設計でありながら、多機能化を実現する柔軟な構造が特徴です。

活用例

・音声認識ユニットやカメラモジュールの接続:モジュール式設計により、用途に応じた交換が可能。

・自動充電ドックとの電源接続:フローティング構造により、多少の位置ズレでも確実な接続を維持。

・小型ロボットの省スペース設計:垂直・水平方向の接続に対応し、筐体設計の自由度を高める。

ロボット分野におけるスプリングコネクタの未来

ロボット技術は、人間との協調や環境への適応で知能との融合を目指す段階へと進化しています。その中で、スプリングコネクタは、柔軟性と信頼性を両立しています。

・さらなる小型化・高密度化
ロボットアームやセンサーの小型化に伴い、スプリングコネクタもよりコンパクトで高性能な設計が求められます。

・センサー統合型設計
圧力・温度・振動などを検知するセンサーを組み込むことで、ロボットが環境や人間の反応をより繊細に感知できるようになります。

・環境適応性の強化
生分解性素材や耐腐食性の強化により、持続可能なロボット開発が進みます。

・ヒューマノイドロボットへの応用
人間の筋肉や関節の動きを模倣した設計が進むことで、より自然で親しみやすい動作を実現。義手・義足などのモジュール交換にもスプリングコネクタが活躍します。

・自律型ロボットによる自己メンテナンス
将来的には、ロボット自身が部品交換を行う際、安全かつ確実に接続できる技術として、スプリングコネクタが重要な役割を果たすでしょう。

このようにスプリングコネクタは日本の産業を支えるだけでなく、発展にも貢献する部品といえます。単なる接続部品にとどまらず、ロボットの柔軟性・信頼性・高性能化を支える基盤技術です。産業用・医療用・コミュニケーション用の各分野での活用が進む中、環境負荷の低減や資源の有効活用といったSDGsの目標達成にも貢献する技術として注目されています。省エネルギー設計やリサイクル可能な素材の活用など、エコロジカルな視点を取り入れた技術革新。ロボット技術の未来を支えると同時に、持続可能な社会の実現も貢献します。(次回につづく)

*SPRING CONNECTOR™は株式会社ヨコオの登録商標です。