地震や豪雨による災害が多発する日本。人命救助の現場では、二次災害の危険から救助隊員が立ち入れない場所も多く存在します。そんな災害現場で活躍が期待されているのが「レスキューロボット」です。本記事では、レスキューロボットの基本から最新動向まで、わかりやすく解説します。
※なお、公的な文書では「レスキュー(救助)ロボット」ではなく、災害時に用いられるロボット全般を指す「災害対応ロボット」という呼称が用いられることが多くなっています。
レスキューロボットのQuince(引用元:未来ロボット技術研究センター・fuRo)
気候変動の影響により自然災害が増加する一方で、救助活動の現場では人手不足が深刻化しています。また、化学物質の漏洩や原子力施設での事故など、人が近づけない現場での対応も求められています。倒壊した建物の内部や有害物質が蔓延している現場など、人命救助が必要でありながら救助隊が容易に立ち入れない状況で、レスキューロボットの需要が高まっているのです。
1995年の阪神・淡路大震災では、同時多発的に広い範囲で発生した建物の倒壊により、瓦礫内に閉じ込められた要救助者の救出が大きな課題となりました。また、同年の地下鉄サリン事件では、救助にあたった消防職員等が二次被害を受けるなど、人が立ち入ることのリスクが明らかになりました。
災害現場で必要とされる作業は、情報収集から実際の救助活動まで多岐にわたります。それぞれの作業に適したロボットを選択し、時には複数のロボットを組み合わせることで、効果的な救助活動が可能になります。
WAREC-1(引用元:早稲田大学)
カメラやセンサーを搭載し、災害現場の状況を把握するための探査型ロボットは、レスキューロボットの基本形と言えます。クローラー(無限軌道:戦車のような連続した帯状の走行装置)を装着したタイプが主流で、急な段差や瓦礫をものともせずに走破する能力を持っています。
また、ドローンのような飛行型のロボットは、上空から被災状況を観測したり、被災地域の地図作成を行ったりすることができます。さらに、超小型カメラを搭載した小型の探査ロボットは、狭い隙間からの情報収集も可能です。
※イメージ写真
近年注目を集めているのが、マウスやラットなどの小動物を模した「小型ロボット」や、生きている昆虫に電子部品を取り付けた「昆虫サイボーグ」の開発です。これらは従来のロボットでは進入できなかった狭小空間にも入り込むことができ、より詳細な探査活動が可能になります。
特に昆虫サイボーグは、生体を活用することで電力消費の課題を解決し、長時間の活動を実現できる可能性を秘めています。生体を扱うゆえに倫理的な議論も必要ですが、技術革新の一つとして注目されています。
無人放水ロボット(引用元:株式会社アームレスキュー)
探査だけでなく、実際の救助活動を支援するロボットの開発も進んでいます。複数のアームや専用の作業機構を搭載し、瓦礫の撤去や物資の運搬が可能なロボットは、人が近づけない場所での作業を可能にします。
従来の建設機械とは異なり、より精密な作業が可能で、遠隔操作で安全に作業を行うことができます。また、被災者への支援物資の運搬や、救助活動に必要な機材の搬送なども担います。
災害対応の現場でロボットを効果的に活用するためには、適切な運用体制の整備が不可欠です。特に重要なのが、平時からの訓練と定期的なメンテナンスです。
レスキューロボットの操作には専門的な知識とスキルが必要です。そのため、操作者の育成と訓練が重要になります。また、複数のロボットを連携させて活動する場合は、指揮系統の確立も欠かせません。
メンテナンス体制の整備も重要で、定期的な点検や部品の交換、ソフトウェアの更新などを確実に行う必要があります。さらに、実際の災害時を想定した訓練を定期的に実施することで、いざという時の対応力を高めることができます。
(引用元:レスキューロボットコンテスト)
災害時だけではなく、平時からロボットを活用することで、操作スキルの維持・向上を図ることができます。例えば、施設の点検業務や警備業務など、日常的な業務での活用が考えられます。
また、防災訓練やレスキューロボットコンテストなどのイベントを通じて、技術の向上と普及啓発を図ることも重要です。日常的な活用により、メンテナンスのノウハウも蓄積され、災害時の確実な運用につながります。
災害大国である日本にとって、レスキューロボットの開発と実用化は重要な課題です。すでに多くの実績が積み重ねられており、今後のさらなる技術革新により、より高度な救助活動も可能になることが期待されています。また、災害時の活用に加えて、平時の活用方法も広がりつつあります。
レスキューロボットは、安全で災害に強い社会を実現するための重要なツールとして、今後さらに発展していくでしょう。