数十年前のロボットは、あらかじめ決められた動作しかできないという限界がありました。今では、機械学習の導入により、ロボットは状況に応じて「考えて動く」ことができるようになり、より柔軟な作業が可能になっています。製造現場での複雑な組立作業から、形の異なる商品の仕分け、気候条件に応じた農作業まで、その活用範囲は急速に広がりつつあります。
本記事では、機械学習が搭載されたロボットの事例を挙げ、今後の可能性についても解説します。人工知能、AIにも繋がる分野ですので、ぜひおさらいしておきましょう。 (併せて「ロボット×AIの前提知識「認知ロボティクス」を学ぶ――人間のように学び、成長するロボット技術の可能性を解説」 もご覧ください!)
工場のベルトコンベアに並んでいるような従来型のロボットは、決まった製品に対して決まった動作しか行えません。例えば、同じペットボトルを次々と箱詰めする作業は得意ですが、形や大きさが少しでも違うものが流れてくると対応できません。
これに対し、機械学習型のロボットは、物の形や大きさを数値化して学習することで、事前にプログラミングをせずとも、未知の対象物に対しても適切に対応できます。例えば、ペットボトルの仕分け作業では、あらかじめ登録していない新商品が混ざっていても、その形状や素材の特徴を認識して適切な扱い方を判断できます。また、商品が変形していたり傾いていたりしても、状況に応じてつかむ位置や力加減を自動的に調整することができます。
機械学習型ロボットが「考えて動く」過程は、人間の認知プロセスに似ています。
まず、カメラやセンサーを使って周囲の状況を把握します。これは、人間が目や触覚で状況を認識するのと同じです。次に、収集した情報をもとに、その状況で最適な動作を判断します。
さらに重要なのは、実際の動作結果からの学習です。例えば、ある動作がうまくいかなかった場合、その経験を次回に活かして動作を改善していきます。このように、状況認識、判断、そして経験からの学習という3つの要素が組み合わさることで、ロボットは「考えて動く」ことができるのです。
(引用:Aeolus Robotics(アイオロス・ロボティクス)社開発のAI・機械学習機能搭載型ヒューマン支援ロボット「アイオロス・ロボット」。製品サイトはこちら)
機械学習の導入により、ロボットにできることは大きく広がっています。従来のロボットは決められた作業を正確に繰り返すことしかできませんでしたが、機械学習により、状況判断や意思決定といった、より人間に近い働きができるようになってきました。
従来は人間にしかできなかった繊細な作業も、機械学習型ロボットなら可能になってきています。例えば、野菜の仕分けでは、形や大きさが不揃いな対象物でも、それぞれに応じた適切な扱い方を学習できます。また、衣類のような柔らかい物を扱う作業でも、状況に応じた力加減を学習することで対応が可能です。
機械学習により、例えば協働ロボットは周囲の人の動きを認識し、安全に配慮しながら作業を行えるようになっています。これにより、従来の産業用ロボットのように完全に隔離された環境だけでなく、人とロボットが同じ空間で協力しながら作業を行うことが可能になっています。また、接客や案内を行うサービスロボットも、人の動作や表情を学習することで、より自然なコミュニケーションができるようになってきました。
機械学習型の検査ロボットは、製品の微細な傷や欠陥を学習・分類し、人間の目では見つけにくい不良品を高精度で発見できるようになっています。また、機械の動作パターンや振動、音などのデータから異常を学習することで、故障が起きる前に必要なメンテナンスのタイミングを予測することも可能になっています。
(写真:pixabay)
機械学習型ロボットは、様々な産業分野に変化をもたらしています。人手不足の解消だけでなく、作業の効率化や精度向上など、ビジネスにおける新たな価値を生み出しています。以下で、代表的な活用事例を見ていきましょう。
製造現場では、多品種・少量生産への対応や品質検査の自動化において、機械学習型ロボットが活躍しています。従来は熟練工の技能が必要だった複雑な組立作業や、製品の外観検査なども、機械学習型ロボットが担えるようになってきています。特に自動車や電機製品の製造ラインでは、頻繁な製品切り替えにも柔軟に対応し、24時間365日の安定した生産を実現しています。
物流倉庫では、形状や大きさが異なる商品の仕分けや箱詰めを行うロボットが導入されています。機械学習により、梱包する商品に応じて最適な詰め方を判断したり、壊れやすい商品を適切な力加減で扱ったりすることができます。さらに、在庫の出し入れを行うロボットは、注文の傾向を学習することで、頻繁に出荷される商品を取り出しやすい位置に配置するなど、作業効率の最適化も実現しています。
農業分野では、収穫ロボットや農薬散布用ドローンに機械学習が活用されています。例えば、収穫ロボットは果物の色づきや硬さを判断して最適なタイミングでの収穫を行い、ドローンは畑の状態を分析して必要な箇所にピンポイントで農薬を散布します。これにより、収穫量の増加や農薬使用量の削減が実現し、環境に配慮した効率的な農業経営が可能になっています。
機械学習型ロボットは、技術の進歩とともにますます賢くなり、できることも増えていくでしょう。特に人手不足が深刻化する中で、人間の作業を支援し、補完する存在として、その重要性は高まっていくと考えられます。
ただし、ロボットはあくまでも人間の仕事を支援する道具に過ぎません。人間の判断や創造性が必要な仕事は、今後も人間が担っていくことになります。機械学習型ロボットをうまく活用することで、人間はよりクリエイティブな仕事に注力できるようになるでしょう。
人とロボットが共存する未来の職場では、それぞれの得意分野を活かしながら、より効率的で創造的な仕事が実現できるはずです。