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2025.01.21

改めて「ロボットアーム」を学ぶ――産業現場の自動化を実現する“ロボットの腕”について解説

製造現場や物流倉庫などで使われ、一般的な産業用ロボットのイメージとして最初に思い浮かぶのが、ロボットアームかと思います。人間の骨・関節構造と同じく、リンク(骨)とジョイント(関節)の組み合わせが基本的な構造ですが、多く種類が存在し、その違いを理解していない人も意外といるのではないでしょうか?

本記事では、ロボットアームの基本的な仕組みから具体的な活用方法まで、初心者にもわかりやすく解説します。

(引用:unsplash

ロボットアームとは?産業現場で活躍する“ロボットの腕”を理解しよう

ロボットアームは、人間の腕のような動きを実現する産業用ロボットの一種です。プログラミングによって制御され、さまざまな作業を自動化できる特徴を持っています。まずは、その基本的な概念から見ていきましょう。

ロボットアームの定義

ロボットアームとは、プログラムによって制御可能な機械式の腕のことを指します。産業用ロボットの中でも最も広く普及しており、自動車製造や食品工場、金属加工、医療業界など、幅広い分野で活用されています。一般的には複数の軸(関節)を持ち、それらを組み合わせることで人間の腕のような自由な動きを実現します。

人間の腕に学んだ基本構造

ロボットアームは、人間の腕の構造をモデルとして設計されています。人間の関節に相当する「ジョイント」と、骨に相当する「リンク」で構成され、これらを組み合わせることで複雑な動きを可能にしています。一般的な産業用ロボットアームでは6軸を持つものが主流で、これにより人間の腕に近い、自由度の高い動きを実現しています。

なぜ今ロボットアームが注目されているのか

人手不足や高齢化が深刻化する中、ロボットアームへの期待が高まっています。従来は人が直接行っていた危険な作業や重労働を、ロボットアームが代替できるようになってきました。また、AI・IoT技術の発展により、より高度で柔軟な作業が可能になってきていることも、注目を集める要因となっています。

ロボットアームの種類と特徴を知ろう

産業用ロボットアームには、作業内容や用途に応じてさまざまな種類があります。それぞれに特徴があり、目的に応じて最適なタイプを選択することが重要です。

垂直多関節ロボット:最も一般的な万能型

現在の産業用ロボットにおいて主流となっているのが垂直多関節ロボットです。人間の腕のような自由な動きを再現でき、多様な作業に対応可能です。6つの軸を持つものが一般的で、広い作業範囲と高い自由度を活かして、組立・溶接・塗装など、さまざまな作業をこなすことができます。

スカラロボット:高速・高精度な水平作業に特化

スカラロボットは、水平方向の動作に特化したロボットアームです。構造がシンプルで制御が容易なため、高速かつ高精度な作業が可能です。主に電子部品の組立や検査工程、食品のピッキングなど、平面的な作業での活用が進んでいます。

パラレルリンクロボット:精密作業のスペシャリスト

複数のアームを並列に配置する特徴的な構造を持つのがパラレルリンクロボットです。高速で精密な動作が可能で、生産ライン上を流れる製品の小さな差異の検出、選別、仕分けなどの作業で力を発揮します。構造上の特性により、高い剛性と精度を実現できる一方、作業範囲はやや限定的になります。

直交ロボット:シンプルで導入しやすい

2〜3つの直交するスライド軸で構成されるシンプルな構造が特徴の直交ロボット。生産技術部門で自社製造する企業もあり、設計変更が容易で導入コストも比較的抑えられることから、中小企業での活用も進んでいます。動作は単純ですが、位置決め精度が高く、搬送や組立などの基本的な作業で力を発揮します。

ロボットアームの主な活用分野と具体的な用途

産業界では、さまざまな分野でロボットアームの活用が進んでいます。それぞれの分野での具体的な活用例を見ていきましょう。

製造業での活用:組立・溶接・塗装など

製造業では、特に自動車産業を中心に、ロボットアームの活用が進んでいます。部品の組立や溶接、塗装といった作業を24時間体制で行うことができ、品質の安定化と生産性の向上に貢献しています。また、人が作業するには危険な環境下での作業も、ロボットアームなら安全に実施できます。

物流分野での活用:ピッキング・パレタイジングなど

物流倉庫では、商品のピッキングやパレットへの積み付け作業(パレタイジング)にロボットアームが活用されています。画像認識技術と組み合わせることで、多様な形状の商品にも対応可能になってきており、作業者の負担軽減に大きく貢献しています。

食品産業での活用:仕分け・包装など

食品業界では、原材料の仕分けや製品の包装工程でロボットアームが活躍しています。衛生面での優位性に加え、温度管理が必要な環境下での作業も可能なため、食品安全性の向上にも寄与しています。

その他の産業分野での活用

医療分野での精密機器の組立や、研究開発現場での実験支援など、ロボットアームの活用領域は着実に広がっています。特に近年は、協働ロボットと呼ばれる人との協働作業が可能な新しいタイプのロボットアームも登場し、さらなる活用の可能性が広がっています。

ロボットアーム導入のポイントとは

ロボットアームの導入を検討する際には、いくつかの重要なポイントがあります。効果的な導入のために、以下の点を慎重に検討する必要があります。

可動範囲と自由度の検討

ロボットアームの可動範囲(アームが届く範囲)と自由度(動きの自由さ)は、導入の成否を左右する重要な要素です。目的とする作業に必要な動きをカバーできるか、また設置場所での十分な動作スペースが確保できるかの確認が必要です。

一般的に、軸数が多いほど自由度は高くなり複雑な動きが可能になりますが、同時にコストアップや制御の複雑化につながります。たとえば単純な搬送作業であれば、必ずしも高い自由度は必要ありません。用途に応じた適切な選択が、コストパフォーマンスの高いシステム構築につながります。

可搬重量の見極め

搬送する対象物の重量に加え、ロボットハンド自体の重量も考慮した上で、十分な余裕を持った可搬重量(ロボットアームが持ち上げられる重量)の選定が必要です。

メーカーが示す最大可搬重量はあくまでも理論上の上限値であり、実際の運用では最大値の7〜8割程度を目安とすることで、安定した稼働と長寿命化を図ることができます。また、対象物の重心位置によっても実際に扱える重量は変わってくる点にも注意が必要です。

速度と精度のバランス

高速動作と高い精度は、両立が難しい要素です。特に精密部品の組立などでは、停止時の振動を最小限に抑え、正確な位置決めを確保する必要があります。動作速度を上げることで作業時間は短縮できますが、その分、停止後の振動が収まるまでの待機時間が長くなってしまいます。結果として、全体の作業時間が増えてしまう可能性もあります。作業内容に応じた適切な速度と精度のバランスを見極めることが、実質的な生産性向上につながります。

周辺機器との連携性

ロボットアームは生産ラインの一要素であり、周辺機器との円滑な連携が不可欠です。たとえば、ベルトコンベアや画像認識カメラなど、関連する機器の処理能力とのバランスが取れていないと、システム全体の効率が低下してしまいます。また、生産管理システムとの接続性や、将来的な機能拡張の可能性も考慮に入れた選定が重要です。

安全面での配慮

ロボットアームの導入には適切な安全対策が不可欠です。作業者とロボットの作業領域の分離や、異常時の即時停止機能など、基本的な安全機能の確認が必要です。特に協働ロボットの場合は、人との接触を前提とした安全機能や、作業スピードの制限など、より綿密な安全設計が求められます。

産業用ロボットの革新を牽引するロボットアーム技術

ロボットアーム技術は日々進化を続けています。AI技術の発展により、より柔軟な作業への対応が可能になってきているほか、人との協働を前提とした新しいタイプのロボットアームも登場しています。また、導入コストの低下により、中小企業での活用も広がりつつあります。

今後は、より直感的な操作や動作の設定が可能になることで、専門知識がなくても扱えるロボットアームの普及が期待されます。また、IoTとの連携により、遠隔操作や複数のロボットアームの連携制御なども容易になってきています。

工場の自動化からスタートしたロボットアームの活用は、今や医療、農業、宇宙開発など、私たちの想像をはるかに超える領域へと広がりを見せています。新たな技術との融合により、ロボットアームの活躍の場は、今後もさらに拡大していくことでしょう。