過酷な環境下でミリ単位の精度を求められるトンネル工事。現場に投入された施工ロボットたちは、温度や湿度、粉塵といった「不確実性」に日々さらされている。現場の技術者がその都度行っている微調整や、膨大なセンサー群から弾き出される動作ログの中には、世界をリードする「発明の種」が数多く眠っている。しかし、多忙を極める開発現場において、それらの知見を言語化し、権利として保護する余裕はこれまでほとんどなかった。
そんな現場の知恵を、瞬時に「知的財産」へと変換する画期的な試みが成果を上げた。リーガルテック株式会社が提供する特許支援AIプラットフォーム「MyTokkyo.Ai」による、建設ロボットの制御技術の発明抽出だ。ロボットのセンサーデータからAIが発明の要素を抜き出し、特許出願に必要な書類を自動で整理する。このスピード感が、停滞しがちなインフラ業界のイノベーションを劇的に加速させようとしている。(文=RoboStep編集部)

(引用元:PR TIMES )
2026年1月16日、リーガルテックは、建設現場におけるトンネル施工ロボットの施工精度補正制御技術に関して、自社のAIプラットフォームが活用された事例を発表した。この取り組みの核心は、人間には捉えきれない微細な環境変化と、それに対応するロボットの挙動を法的に保護可能な「発明」として再定義した点にある。
トンネル施工をはじめとする建設分野では、深刻な人手不足や安全性の向上を目的にロボットの導入が急ピッチで進んでいる。しかし、工場のようなクリーンルームとは異なり、建設現場の環境条件は刻一刻と変動する。温度や湿度、あるいは地盤の硬さや粉塵の量といった要因がロボットアームの位置制御や加圧制御に微妙な狂いを生じさせ、それが施工誤差や再調整の手間となって現場を悩ませてきた。
今回の事例では、これらの環境変動を前提とし、センサー情報をAIが解析してロボットの動きをリアルタイムに補正する新たな制御技術に焦点を当てた。従来、こうした現場発のアイデアを特許にするには、知財担当者が現場のエンジニアに個別にヒアリングを行い、曖昧な技術的着想を「課題」「解決手段」「技術的効果」という特許特有の形式に落とし込む必要があった。このプロセスには多大な時間と専門知識を要し、せっかくの現場で得られた知見 が埋もれてしまう大きな要因となっていた。
(引用元:PR TIMES )
こうした課題に対し、「MyTokkyo.Ai」は施工ロボットの動作ログやセンサー情報、技術メモといった生データを直接AIが解析することで、この高い壁を取り払った。今回の検討では、トンネル施工ロボットから得られた環境条件と施工データの解析結果を入力。AIが短時間で発明のコンセプトを構造化し、特許出願の土台となる発明提案書のドラフトを自動生成した。知財の専門知識を持たない現場の担当者が、日々の業務で得た技術的知見をそのまま「発明」として言語化できる環境が整ったのである。
この取り組みが建設・ロボット業界にもたらす価値は、単なる事務作業の効率化にとどまらない。特筆すべきは、現場の「改善」という事実を、即座に「企業の武器」へと変える競争戦略の転換だ。
今回の事例においてAIが導き出した施工精度補正制御技術は、施工誤差を従来比で約60%削減するという極めて高い効果が期待されている。この「60%の改善」というデータは、現場にとっては生産性の向上を意味するが、ビジネスの視点で見れば競合他社を圧倒するための強力な差別化要因、すなわち「勝ち筋」そのものだ。
ロボット産業における競争の主戦場は、いまや本体たるハードウェアから、それをどう動かすかという制御ソフトウェアへと移っている。特に、不規則な外部環境に適応するための自律制御技術は、模倣が難しく価値が高い。しかし、その技術が文書化され、権利として保護されない限りは、他社に容易に追随される、あるいは技術そのものが属人化して組織から消えてしまうリスクを孕んで いる。
開発と知財化のタイムラグをAIによって最小化することは、研究開発サイクルの高速化に直結する。現場で生まれた新しい制御アルゴリズムが、その日のうちに特許の構成案として整理され、速やかに出願へと回される。この「知財化の高速道路」が整備されることで、企業は自社の技術的な優位性を法的に固定しながら、次なる開発へとリソースを集中させることが可能になる。
これからのロボットメーカーや建設会社に求められるのは、現場で生み出される膨大なデータを、いかに素早く「知的財産」という交換不可能な資産に変換できるかだ。AIによる知財武装は、熟練の職人技をデジタルへと昇華させ、日本のインフラ技術が再び国際的なプレゼンスを取り戻すための不可欠なインフラとなるだろう。現場の小さな「誤差」と向き合うロボットの孤独な戦いが、AIを介して企業の未来を支える盤石な盾へと変わろうとしている。